第一話 「遭遇」





 

ポケダン学園にも春がやってきた。新入生がチーム作りに励むこの季節、上級生でもチーム編成が忙しい。チームは基本的に一年間そのままなので、この時期に一年間のひずみを直すのである。

しかし、そんなこともアポロには関係なかった。今年二年生になったアポロは昨年のチームをそのまま継続することになっている。アポロは今のチームが気に入っていたし、何の不満もないわけだ。アポロの周りにはそういうチームも多く、友人のふたばも継続らしい。

 このポケダン学園は、探検隊養成に力を入れている学校である。寮も完備されており、授業は午前中のみで午後は探検といったプログラムまで取り入れている。そのため、もっとも多く過ごすことになるチームではメンバー同士の仲が重要な鍵となるのである。こちらもアポロには関係なかったが。

アポロの所属するチーム「コスモス」は校内でも割と有名な探検隊である。隊員はアポロと、リーダーであるティコの二匹。上級生でさえ苦戦する依頼も難無くこなし、将来を有望視されているチームの一つだ。リーダーのティコはエネコの女の子で、見た目は笑っているようで可愛らしい。しかしエネコというのは元々笑ったような顔の造作であるため、実際はものすごく無表情である。そんなのはティコだけかもしれないが・・・とにかくティコは無口、無表情、無愛想を地で行く女の子だった。
 そんなことを考えながら歩いていたアポロは、知った顔をみつけて立ち止まった。

「ん…、あれティコだ」

 学校の掲示板付近にぽつんとティコが座っていた。どうやら貼り紙をみているらしい。アポロが隣に行き、掲示板を見上げると、今年の遠足についての貼り紙があった。無論遠足も探検であり、場所は指定のダンジョンである。しかしアポロが見たものは、

「・・・黄金の間・・・?」

成績が優秀な探検隊五チーム程度を募集し、伝説の黄金の間の探索を行う―大まかに言えばそんな感じの内容の貼り紙だった。つまりは特別遠足。他にも貼り紙には細かな内容が書かれていたが、黄金の間の場所は見当がついていてほぼ間違いないだとか、応募基準だとか(もちろんコスモスは全て満たしている)、学園長のきまぐれをつめこんだ夢のある遠足になることは間違いない。

「ねぇティコ、応募するの?」

興奮して尋ねるアポロを見たティコは「さあね」とでも言うように小首をかしげ、それから

「嵐の予感がする」

と、そうつぶやいた。どこまでも青い空には雲さえ無くて、しかしティコはそのまま歩いて行ってしまった。アポロはそんなティコと青空とを見て、

「ティコが話すところ・・・二年になってから初めて見た・・・」

そっちのほうに呆然としていた。



 この黄金の間を探検するという特別遠足の話が校内中に知れ渡るまでには、ほとんど時を必要としなかった。
 さすがは将来有望な探検隊のタマゴとあって、情報収集能力を駆使して噂として広まったのはもちろんなのだが、
「今年の遠足はねぇ、すごいんだよ♪だいたい五チームくらいかなぁ、黄金の間に行かせちゃうよ♪十中八九間違いないんじゃないかなぁ・・・宝物がたくさんあるんだよ。基準?そうだねぇ・・・優秀なチームじゃないとすぐにやられちゃうだろうから・・・」

と学園長本人がふれまわっているのだから奇妙な話である。本人が言うなら掲示板に書かなくてもよさそうなものなのだが。
 とにかく、その掲示が貼り出されたその日の内には学内で以下のようなやりとりが行われたのである。



「ねぇ、ほたる!これ応募してみない?ボクたちなら基準もクリアしてるし」

「黄金の間?グミとかあるかなぁ?」


 

「リコリス!応募していいよね?ボク・・・もっといろいろ探検したいんだ!」

「あぁ・・・それね。ごめんなさい、エルピス」

「?」

「もう応募しちゃったから」




「・・・いいの、ティコ?この前さ『嵐の予感がする』って言ってたのに。・・・そっか。せっかくの機会をむだにしちゃいけないよね!」

「きなこ!きなこ!応募したよ!楽しみだよね!!・・・ところで『おうごんのま』って何?」

「こまちったら知らないのに応募したんだ・・・」


 

「黄金の間ですか・・・。非常に興味深いのですが・・・ヤミラミたちとでは『チーム』と呼べませんよね。こういう時、私もチームを組んでいたらと思うのですが・・・ねぇ・・・」

「ウィー・・・」

「黄金の間か・・・。一度は行ってみたいが・・・。オレはチームに入ってないしなぁ・・・」

「ねぇジュプトルさん!行きましょうよ!チームなんかその辺のポケモンとテキトーに組んじゃえばいいじゃないですか、ほら!案外近くに暇そうなポケモンっているんですよ。周りを見て下さいって」

「・・・え?」

「・・・ウィ?」

「・・・ん?」
「・・・・・・・・・ふむ、暇そうなポケモンですか」
「・・・・・・いたな、目の前に。こんな無駄にでかい図体なのに気付かないとはな」
「おやおや、注意力散漫なあほトカゲが暇そうにしていますね」
「なんだと」

「・・・・・・あの、私も入れてくださいよ?」



 かくして役者は揃い、物語は加速する。



天気は良かった。風も穏やかで、遠足日和と呼ぶにふさわしい。ポケダン学園の遠足はいつも春、もう少しで初夏という日に行われる。それは結成したての新チームの相性チェックという意味も含んでいるからだ。そう、これは記念すべき最初の探検なのである。

しかし。この特別遠足には、浮かれムードもお楽しみムードも無かった。あるのは重苦しい空気のみ。チーム「なないろ」のリーダーこまちだけが無邪気さをふりまき、さながら空気清浄機のようである。重苦しい空気の原因は明らかで、上級生である四年生(ポケダン学園は中高一貫校、つまりは高校一年生)たちのせいだ。

「私の一番の失敗は、その場のノリとはいえ、あなた方とチームを組んでしまったことです。そうですね、人生最大の汚点となることでしょう」

「それはこっちのセリフだ」

「よく考えればヤミラミは六匹いたんです。立派なチームになったではないですか。あぁ、私は何故こんな奴とチームを組んでしまったのでしょうか。嘆かわしい」

「それはこっちのセリフだ」

「あなたはさっきからそればかりですね。まぁ『なんとかの一つ覚え』といいますからね」

「うるさい。誰が馬鹿だと!?」

「おや、ご自分が馬鹿だと自覚していらっしゃったんですか」

さっきからずっとこの調子である。犬猿の仲で知られているジュプトルとヨノワールが(何がどうひっくり返ったかしらないが)同じチームになってしまったのだ。

「あんなに仲が悪いのにどうして同じチームなんだろ?」

そうこまちが首をかしげるのもうなずける。セレビィ曰く「もう神様のいたずらとしか思えない偶然によるもの」らしい。

ほたるはため息を吐きつつ、スペシャルメンバーとも言うべき今回の選ばれし八チームを観察する。

まず自分の所属するチーム「たんぽぽ」。それなりに強いという自覚があり、実際強い。おもに高めのお礼がもらえる依頼をこなしている。

次に同学年の探検隊「コスモス」。名前が割と知られていて、ほたるも知ってはいたが、一緒に冒険するのは初めてである。リーダーのティコは何を考えているのかよくわからない。アポロはふたばの友人らしい。

一つ下の学年の「なないろ」は無邪気なイーブイのこまちが率いる探検隊である。パートナーのゴマゾウ、きなこも穏やかそうで、空気が若干やわらぐ。一年生にも関わらずこの遠足に来ているということは、かなりの実力を秘めていると学園側が判断したのだろう。

一学年上の「ヘーリオス」はとにかく人気がある。緑色のバンダナを眼帯代わりにつけた隻眼のニャース、リベルことリーベルタースはその実力とクールな振る舞いでかなりモテる。パートナーのエアルはしっかり者で、学級委員長タイプといった感じだろうか。

同じく一学年上の「ベルカナ」。美人で頭も良いリーダーのリコリスは、男子生徒から人気がある。パートナーのエルピスはその記憶力の良さと命中精度の高さで有名である。モンスターハウスの敵ポケモンを一発の放電だけで全滅させるなどと数々の伝説の持ち主らしい。・・・そうは見えないが。

そして問題のチーム「くされえん」。どうしてこういうチーム名なのか、そもそもなぜこのメンバーでチームを組んでしまったのかは今世紀最大の謎である。生徒会長のヨノワール、超が付くほど格好いいジュプトル、可愛らしい桃色のセレビィ、よくわからないヤミラミたちと、クセのありすぎるメンバーである。

とにかく、今は無事に目的地まで辿り着けるかが勝負である―そんな風にほたるは思った。普通の遠足にならないことはわかってる。もうどんなことが起こっても大丈夫。

な、ハズだった。



 

 誰かからみられているような気がして、ティコは振り返った。当然そこには誰の姿も無く、ただ気配だけが残っていた。
「・・・・・・・・・」 
「ティコ、どうしたの?もうすぐ着くみたいだよ」
 アポロに話しかけられうなずく。確かに気配を感じたのだけれど。


 

洞窟の入り口はいたって普通だとほたるは思った。ちょっと強そうな敵がいることは肌で感じるが、苦戦するほどではなさそうだ。ここに黄金の間があることを思うとわくわくしてきた。

「ふたば、気をつけていこうね!」

「わかってるよ、ほたる。ボクなんだかワクワクするよ!」

「ふたばってば興奮してるね。まぁボクもなんだけど。ねぇ、ティコ。・・・あれ?ティコ?」

「・・・・・・。・・・・・・・・・!?・・・・・・」

「きなこっ!なんかスゴイよ!おうごんのま、本当にあるのかな?」

「こまち、落ち着いて。あ、なんかボク鼻血でてきた」

興奮と期待とが入り交り、さすがに洞窟の中もざわめく。その中に異常なものがまぎれこんでいることに、ほとんど誰も気づかなかった。



 

「なんか、変な感じ」

そうセレビィがつぶやいたのは、洞窟に入ってから比較的早い段階だった。何だろう・・・この違和感。なぜそれを感じたかもわからずにセレビィは首をかしげる。

「そうか?別に・・・ちょっと敵が強いだけの、普通のダンジョンだろ?」

「どうしたんです?怖いんですか?なんなら帰ってもらっても・・・そこの馬鹿トカゲも一緒に」

「別に怖くなんかありません!」

否定しながらも違和感は消えない。

何だろう、変な感じ。


 

リベルも同じような違和感を抱いていた。このダンジョンそのものが、おかしい。ダンジョン特有の雰囲気の中に、何とも言えない悪意がただよっているかのような。

まるで「お尋ね者」が入り込んだダンジョンのようだ。

そう思い当り、リベルははっとした。そうだ、もしかしたら。

「リベル?さっきからどうしたの?」

「エアル、このダンジョンには普通でない者が混じっていると思う。・・・気をつけろ」

「・・・わかった」

この遠足・・・なんだかやばそうだ。



 

こまちは少し不思議に思った。敵のレベルはそんなに高くない。だったら、どうしてこんなにてこずるんだろう?学園長も認めたスペシャルメンバーにしては、戦闘のテンポが悪いような。

その時、敵ポケモンが襲いかかってきた。マグガルゴだ。こまちは難無くやりすごし、そして気づいた。

この洞窟、炎ポケモンが多いような。でもさっき出てきたのはユキワラシだった。

なんだか、まるでわたしたちの弱点を知っているみたい。




なぜこの洞窟に炎ポケモンや氷ポケモンが多いのか、ヨノワールも疑問に感じ始めていた。事前報告で聞いていた内部情報とは若干異なっている。普通炎ポケモンと氷ポケモンが共存するのだろうか。とにかく、比較的草ポケモンが多いこのメンバーでは非常に戦いづらい。

まるで、試されているようだな。

洞窟内に入ってからたまに感じる視線といい・・・この遠足、ただで済みそうにない。



 

「だいぶ奥まできたよね?リコリス」

「そうね、エルピス。黄金の間はもうすぐかな?」

エルピスの記憶からすれば、もうすぐ地下20階である。学園長の話では黄金の間は地下23階。間違いなく、もうすぐ着くはずだ。

しかし、エルピスに目的地に近付いているという実感はなかった。不安だけが強くなる。まるで巨大な罠に入り込んだかのような。

その時、ダンジョンの異様に長い通路の先に、一匹のボスゴドラが見えた。普通の敵ポケモンとは違う、悪意の塊のような気配を放つボスゴドラ。あいつは確か、

「あ!」

思わず声を上げてしまった。どうしたんだと振り返った周りの視線の鋭さに一瞬ひるみそうになったが、これは緊急事態だ。

「どうしたの、エルピス?・・・なんか怖い顔してるけど?」

「リコリス。あの・・・さっき通路を横切ったボスゴドラ・・・超極悪のお尋ね者だよ!」

「なんだって!?」

「・・・間違いないの?エルピス」

「うん。昨日貼り出された最新のお尋ね者ポスターの中にあった。☆1ランクのお尋ね者だよ!」




その場の空気がどよめいた。普通生徒が倒すお尋ね者は、せいぜいCランクまで。他より多くの場数を踏んでいるほたるたちでも、倒したのはAランクまでだった。

ほたるの頭から、黄金の間のことなど吹っ飛んでしまった。

話し合いの結果、チーム「くされえん」と「ヘーリオス」がお尋ね者を見に行き、残りが手分けして階段を探す、ということになった。

探検隊である以上、お尋ね者を見過ごすことはできない。

それでも、この選択が正しいのかどうかほたるはわからなかった。




ティコとリコリスの持つかしこさ「空間把握」と、ほたるの「カンがいい」を使い、階段がありそうな部屋に目星をつけ進んでいく。

部屋の前まで来た時、ほたるはとても嫌な予感がした。できることならこの部屋を避けたい。しかし、一瞬階段のようなものが見えた気がして、ほたるは覚悟を決めた。進むしかない。

足を一歩踏み出したその部屋は、モンスターハウスだった。

予想できたことだった。ダンジョン内での嫌な予感の定番と言っていい。ほたるは努めて冷静に放電を放った。部屋全体に効果のあるこの技で、大半の敵は倒れていく―。

 はずだった。

「えっ!?」

放電は、部屋の隅―ちょうどほたるたちの対極の場所―に鎮座するドサイドンの特性「ひらいしん」により、無効化されてしまったのだ。

 ほたるは電気タイプのピカチュウ。電気技が封じられ、どうすればいいかわからなくなった。早くしないといけない。先輩たちがお尋ね者と戦っているかもしれない。でも―。

その時、思いがけない救世主が現れた。後ろから。

「まかせて」

 そう短く言ったのはティコだった。敵ポケモンの前に立つと、素早く技を繰り出す。その技は先ほど無効化されたものと同じ、電気タイプの技“10万ボルト”だった。ダメージを与えられないのをみていたはずなのに。

 しかし、ティコの放った10万ボルトは迷わず四方の敵を直撃した。

「ノーマルスキン、だよ」

「え?」

 アポロが解説をする。

「エネコの持つ特性は『ノーマルスキン』って言ってね、繰り出す技を全部ノーマル技に変えちゃうんだ。使ってる技は“10万ボルト”でも、ティコが使えば電気技でなくなるんだ」

「それで無効化されずに済むのね」

「そういうこと。・・・ティコはいつもこの特性を迷惑がっていたけど、こんなところで役に立つなんてね」

 少し安心したほたるだったが、このままティコだけを戦わせるわけにはいかない。援護しなくては。

  

 このメンバーで来るんじゃなかったな、とジュプトルは思った。もう遅いが。

 お尋ね者のボスゴドラの「様子を探るだけ」だったはずが、ばったり鉢合わせしてしまった。向こうが待ち構えていた感もするのだが、こうなった以上どうしようもない。

そういうわけで戦闘が始まってしまったのだが、タイプ相性が悪い。ボスゴドラははがね・いわタイプ。このメンバーではどうも分が悪いわけで。・・・ヨノワールも頭がいいならもっと考えてほしいものだ。ここは炎タイプのロコンがいる、「ベルカナ」を連れてくるのが妥当だろうが。しょうがない、「あなをほる」でもするか。

ジュプトルがそう思った時、ふいに地面がゆれた。「じしん」だ。なるほど、「ベルカナ」をつれてこなかった理由はこれか。

妙に感心した。


 

階段はそこに見えてるのにな、とこまちは思う。先輩たちが頑張る姿を見て、しかしそれで安心できるこまちではなかった。圧倒的に不利すぎる。このまま先輩たちが持ちこたえられるとはどうしても思えなかった。

せめてほたる先輩のわざが使えたら良かったのに。あのドサイドンが邪魔なんだ。そのくせ、わざわざあんな遠い所に居座っちゃってさ。近かったらばっちばちにやっつけてやるのにな。

・・・近かったら?

その瞬間こまちの中で何かが閃いた。
「そうだ、そうだよ。あんなところに陣取るなんておかしいもん」
「・・・こまち?どうしたの?」

パートナーのきなこが不思議そうに眉を顰めたが、こまちは答えなかった。そしてこまちは、不安げに戦いを見守っていたリコリスを遠慮なく引っ張って(抗議の声は当然の事ながら無視)、モンスターハウスから背を向けて走り出した。


 

ヨノワールは自分の判断力に絶対の自信を持っている。ボスゴドラが地震を覚えていることを視野に入れたこのチーム編成は、だから間違っていない。

しかし、決定的なダメージを与えられるか、と言われればそうでもない。できることはじわじわと相手の体力を削ることだけだ。

そう思ったときだった。
「ヨノワールさん、これ!」
「?」

後ろで回復を担当していたエアルが、ヨノワールに向かって何かを投げてよこした。これは、
「わざマシン・・・?そうか」
「それ、使ってください!さっき拾ったんです」

皆まで言わなくとも、中に入っている技を見て、エアルの意図したことはわかった。

ヨノワールはエアルに向かってうなずくと、さっそくわざマシンを起動した。



 

ほたるは焦っていた。ティコの10万ボルトと、アポロの火炎放射、ふたばのエナジーボールで戦ってはいるが、一向に敵ポケモンが減らないのである。さすがにモンスターホウスということか。

そろそろティコにも疲れが見えてくる。この中で全体攻撃ができるのはティコだけだからだ。

無力感と、かすかに絶望を感じはじめたときだった。
「お待たせしました、先輩!」

その元気な声とともに、思いもよらない救世主が現れた。こまちである。

見るとこまちは、ドサイドンの背後から尻尾をぶんぶん振り回して無邪気に声をあげていた。いつの間にか反対側に回っていたのである。

目の前の戦いに気を取られていたほたるたちは気がつかなかったが、このモンスターハウスにはもう一本通路があったようだ。おそらくドサイドンは、この通路の存在を気取られないために、あの場所を動かなかったのだろう。何せあの巨体だ。通路一本くらい隠すのは造作もなかっただろう。

しかし、こまちは気づいた。

そして、こまちの突然の登場に驚いたのは、もちろんほたるたちだけではなかった。まして裏をつかれたのだから狼狽えるのも無理はない。それでもドサイドンにはまだ驕りがあった。小さなイーブイ一匹が現れたところでたいした驚異ではないと、軽く考えてしまったのだろう。

その一瞬の油断を― 一年生ながら学園長からお墨付きを貰った優秀な探検隊である―こまちが見逃すはずもなかった。
「覚悟してよね、ドサイドン!」
「!」

豪快かつ鮮やかな“水平斬り”を一閃。

その一撃でドサイドンが倒れるのを見届けてから、ほたるも放電を放つ。

これでモンスターハウスに敵の姿は無くなった。



 

悔しいが鮮やかな一撃だった、とジュプトルは感心せざるをえない。

ジュプトルたちの前には倒れたボスゴドラの姿があった。あの時、惜しくも攻撃をはずしたジュプトルの背後から、ヨノワールは突然“かわらわり”をくりだしたのである。

それが決め手になって勝ったのは間違いないのだが、なんだがジュプトルは釈然としない。
「お前・・・そんな技使えたんだったら、最初から使えよ・・・」
「覚えたのは戦いの途中だ」

答えたのはヨノワールではなく、リベルだった。リベルによると、戦闘中にわざマシンを使ったらしい。
「かわらわりだったらオレでも使えたぞ、エアル」
「そんなこと言われたって・・・あれです、火力の差です」
「なんだよ火力って!つーかお前等もっと積極的に戦えよ!」
「おやおや、地震に恐れをなして“あなをほる”を使わなかったあなたが言えますかね」
「なんだと、ヨノワール」
「ジュプトルさん、静かに・・・」

すっかり喧嘩腰になったジュプトルを小声でたしなめたセレビィだったが、それでおさまるものではない。
「止めるな、セレビィ。オレはな」
「“げんしのちから”!」
「!?」

一瞬ジュプトルは身構えたが、セレビィが狙ったのは背後の鳥ポケモンだった。そう、ここはダンジョンなのだ。気の緩みが命取りになる。

そう考えてから、ジュプトルは思った。そうだ、すっかり忘れていた。
「なあ、これ・・・もともと遠足じゃなかったか?」



 

無事に着いた黄金の間は、確かに素晴らしかった。しかし先の一戦で疲れはててしまったメンバーたちは、敵の姿もワナもないことに感動する。
「キミたちならここまで来れると思ってたよ。お見事、お見事〜♪」

突然そんな気の抜けるような声がかかり、皆は一斉に声の方へ振り向いた。そこに立っていたのはプクリン学園長と教頭のペラップである。
「学園長!?どうしてここに?」
「まさかとは思いますけれど・・・このダンジョンを仕組んだのって・・・」
「ここ・・・学園長がつくったんですかっ?」
「一体何の為に・・・?」

生徒たちが矢のように質問を浴びせると、当のプクリンは楽しそうに笑って言う。
「そんないっぺんに聞かれたら答えられないでしょ。そうだねぇ、話すと長くなるよ?」

かくしてプクリンは語り始める。



 
 
ボクがここに黄金の間があるって話を聞いて、その存在を確信したのは本当だよ。その証拠にほら、ボクたちは今黄金の間にいるもんね。このダンジョンだってさ、他の所と比べるとちょっと手強いだけの普通のダンジョンだったんだよ、この前まではね。
 
実力のある探検隊へのご褒美としてこのダンジョンのことを掲示したのはちょうど二週間くらい前だったよね。なんだかその後からこのダンジョンの中がおかしくなっていったみたいなんだよね。
 
ボクはちょっと出張に行ってて、その報告を受けたのが今朝なんだよね。まぁ、キミたちの実力なら死にはしないと思ったけどね。うん、本当だよ。
 
そんでもって、その出張の内容なんだけれどね。最近おたずねもの同士が連絡を取り合て結束するようになったぽいんだ。つまり悪の組織が生まれちゃったみたい。うん、大変だよね。
 
ということで!ボクは考えたんだよ。キミたちにさ、「シークレットランク」っていうのをつけるから、こっそり秘密のお仕事をやって貰うんだ。
 
最初からまた誰かに説明するのも面倒だし、それに何よりキミたちのチームワーク、抜群でしょ?ハイ、決まりっ♪



 
「えと・・・学園長・・・それはつまり、今後もこのメンバーで行動することがあると・・・?」
「うん、もちろん。楽しみでしょ♪」

皆の表情が一瞬で凍り付いた。静寂もつかの間、瞬く間にそれは絶叫へと変わる。
「そっそれだけはやめてください!」
「せめてチーム編成のやり直しを!」



 
 
皆の絶叫を聞きながらも、プクリン学園長は楽しそうな笑顔を崩さない。
「問題はさ、あの掲示・・・学園内にしか貼ってないってことなんだよね。どうやら学園内にも悪者さんがいるみたいだね」
誰にも聞こえないようにそうつぶやいたプクリンの目は、少しも笑っていなかった。





 


大体はブログに載せたものなのですが、少し加筆修正をしました。

視点がころころ変わってすみません(汗)
実はこれ、結構前に書いたものなんです。えっと、3年くらい前だったけかな・・・。

表現力が無さ過ぎて泣けます。
バトルシーンとかぐちゃぐちゃやん!(
きなことかエルピスとかものすごく空気じゃん!
反省するべきところは多々ありますが、あえて晒してみます。

・・・続きます、たぶん。第2話は休日編です。

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