最後の名前




 

「ねぇ、ジュプトルって名前は無いの?」

「・・・なんだ、いきなり」

「だってさ、ボクはコリンクだけど『エルピス』って名前があるでしょ」

「あるな」

「リコリスだってロコンだけど名前があるし」

「いや、アイツは元ニンゲンだろ。名前があって当然じゃないか」

「そうなの?・・・まぁ、いいや。名前が無いならボクがつけてあげるよ」




 

 ポケモンは進化する。そのたびに呼び名が変わるので、一生のうちに二度呼び名が変わるポケモンもいる。だからだろうか、ポケモンには「名前」というものをつける習慣があまりない。そもそも「名前」をつける必要性もないのだ。大抵は種族名で事足りてしまうのだから。それはポケモンにとって自然なことで、特に気にしたことも無かった。

 あのときまでは。





「ねぇ、ジュプトルにも名前をつけようよ」

 彼の相棒が唐突に言った。

「別に必要ないだろ。この世界にオレ以外の『ジュプトル』なんていないだろうし、きっと同じ種族に会うこともないんだから」

「・・・嫌なの?」

 嫌なわけではなく。単に必要性が感じられないのだ。昔は「キモリ」と呼ばれていて、今は「ジュプトル」。これからもう一度くらい名前が変わる可能性も(0に等しいが)あるかもしれないが、特別何かを思うことはない。進化するのに伴い名前が変わることは自然なことなのだ。

 相棒であるニンゲンにそのことを話すと、彼女は言った。

「私は、そうは思わないけどな」

「どこが」

「うーん・・・うまく説明はできないけれどね」

 彼女は言葉を選びながら言う。

「他のジュプトルとあなたを一緒にしたくないというか。他とは違う何かが欲しいというか。・・・相棒として何かできたらいいなって思ったり思わなかったり」

 どっちだよ。

「うーん・・・複雑な胸の内を言語化するのは難しいわね」

「・・・とりあえず、つけてみろよ」

「え?」

「お前が考えた、オレの名前」

 彼女は一瞬きょとんとした。それからなぜか誇らしげに、そして少しだけ不安げにこう言った。

「えっとね、『タイム』っていうのはどうかな」

「タイム・・・時のことか?」

「ふふ、はずれ。タイムはね、植物。ハーブなの」

「・・・」

「花言葉は『勇気』」

「・・・勇気、か」

「うん。私と同じ、植物の名前」

 そう言って彼女は微笑んだ。




「ねぇねぇ、ジュプトル。どんな感じの名前がいい?カッコイイ系?カワイイ系?ちょっと冒険してオネエ系?」

「・・・なんだよ、それ」

「とりあえずさ、希望を聞いてみないとね」

「・・・いいんだ。オレはジュプトルのままで」

「えー、せっかくいい名前をつけようとしてるのにな」

 内心どこが、と突っ込みを入れつつ考えた。

残された時間はあとわずか。自分の名前がこれ以上変わることはないだろう。

ならば、この名前で成し遂げたいと思ったんだ。



オレの、最後の名前は、





 

以前ブログに載せたものを少し直してみました。

もとはといえば
妹「ねぇ、『最後の名前』っていうタイトルでなんか書いて」
私「・・・は?何それ?」
妹「わからん。でもなんか今ひらめいた」
・・・という流れで書いてみた話だったりしますw

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