世界の形




 いつのことだっただろう。それはもう、忘れてしまったけれど。



「僕に言わせれば世界ってのは全然丸くないね」


 君は、そんなことを言い出した。

 周りには私以外誰もいない、ふたりきりの公園。

 夕日に照らされたブランコが、やけに赤かったのを覚えている。

「ふうん、世界に形なんてあったっけ」

 私は、君にこう返した。

 話が続けば、ふたりきりの時間も続くから。

「そう言われると何か色々考えちゃうじゃないか。僕が言ってるのは惑星のことだよ。ホシのこと」

「この惑星は丸いよ」

「丸くなんかないよ。そうだなぁ、見てて」

 そう言うと、君は棒を鉛筆がわりに使って、地面に長い横棒を描いてみせる。横棒には等間隔に目盛りが描かれ、目盛りと目盛りの間にはなにやら木と人のようなものが描き加えられていく。最後に、またしても目盛りの間―木とか人とかの上のあたり―に太陽と月を交互に描いて、

「これが世界だよ」

と君は言った。

「確かに丸くはないけれどさ、さっぱり意味がわからないよ」

「そうかな」

「そうだよ」

「そうか。えっとね、この横棒は時間だよ。地面と一緒になって見えるけど、まぁいいや。僕らはこれに逆らって毎日歩ってるんだ」

「うーん。つまりはこういうことかな」

 私は小石を使って2つの矢印を描き加えた。横棒の下には右向きに、月や太陽の上には左向きに。

「私たちは左に向かって歩く。時間は右に進むってことかな」

「うん。そういうこと」

「これがどうして世界なの?」

「あれ、まだわからないかな」

 君は不思議そうに私を見た。

「世界がこんなんだから、同じ日は二度と来ないんだ。丸かったら繰り返しちゃうだろ。それにほら、昔のことを忘れちゃうのはさ、置いてきちゃうからなんだよ。昔のものほど遠くにあるから、よく見えなくなるんだ。小さくなって見えにくいから、あまり思い出さなくなるんだよ」

「ふうん」

「それにさ、過去に戻れないのもこれならわかるでしょ。過去なんかに戻ってたら、みんなに後から追いつくの、大変だよ。もしかしたらそのままずーっと先まで流されちゃうかもしれないし」

「そしたら戻ってこれないね」

「きっとね。たぶん僕たちの歩くスピードと時間が流れるスピードは一緒なんじゃないかな。未来に行けないのは、速く歩くのが大変だからじゃない?」

「ふうん。時間は自動的に流れてくるんだ。だったらさ、未来はもう決まってるのかな」

「さぁ?今を歩くのに精一杯だから、未来を心配する余裕なんてあんまりないけど。見える人には見えてるかもね」

「未来が?」

「うん」

「過去の方向へ流れて行った時間はどうなるの?」

「うーん。どこかで潰されちゃうのかもね。ぐしゃりって」

 効果音が若干グロテスクなのは気にしないことにして。

「時間の終着点があって、そこで全部終わるとかそういうのかな」

 君は首を傾げてそう言った。

しばらく黙って「世界の図」を眺めていた私は、ちょっとした考えを思いついて言った。

「案外、戻ってくるかもしれないよ」

「戻るって、どこに」

「ちょっといい?」

私はさっきの小石を使って、君が描いた線の続きを描いた。付け足された線は緩やかな曲線の描き、やがて君が描いた線のはじまりまで戻ってくる。そうして「世界」は楕円になった。

「丸くなったね」

「だいぶいびつだけど、うん」

「それで?」

「長い長い歴史の果てで、いつかまた今日がやってくる日もあるんじゃないかなって思って」

「うん?」

「ほら、言うよね?歴史は繰り返す、とか」

「言うね」

「だったらさ」

「うん。でもそれは完全な繰り返しにはならないんじゃない?」

「あ、気づいた?」

「もちろん」



 そうして二人は共犯者めいて、言う。

「繰り返しの今日に立つ人は、」

「私たちじゃない」

「けれど歴史は繰り返す」

「たぶん、何度でも」

 君が微笑んで。たぶん私もそうした。



 私たちだけが世界の真実を手にしたような錯覚に、酔いしれた。

 幼い錯覚。あるいは幻想。

 そうしてしばらく経ったあとに、君はつまらなさそうに笑った。




「なんだ、やっぱり世界は丸かった」




 

訳がわからないよ。

勢いだけで何かを書くものじゃないですな。
この2人の会話の意味は、私にもわかりません。
いつの間にか時間軸の話になっておりますが、時間も空間も含めて世界なのでしょう。

・・・こんな子供いたら物凄く嫌だ。

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